2025年09月16日
東京農工大学との共同研究により実臭気に応答する嗅覚受容体の選抜法を確立 ―喫煙室空気を対象臭気とした評価―
エステー株式会社は、国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門 福谷洋介准教授との共同研究で、喫煙室の空気をモデル実臭気とした評価系にて、環境中に気体として存在するニオイに応答する嗅覚受容体の選抜方法の確立に成功しました。
ヒトは鼻の奥の嗅上皮にある約400種のニオイを感じとる受容体(ニオイセンサー)にニオイ分子が結合することで、ニオイを知覚します。したがって、どの悪臭にどの受容体が応答するかを特定することは、悪臭の知覚を低減させる消臭技術の開発に重要な基盤となります。
環境中に存在する実際の悪臭(以下、実臭気)は、複数の悪臭成分の混合物として存在しています。そのため、当該研究領域で一般的に採用されている単一の悪臭成分に対する受容体応答よりも、実臭気に対する応答を分析することにより、臭気知覚を担う受容体の選抜精度の向上が期待できます。しかし、実臭気中のニオイ分子の濃度は非常に低く、常温常圧下で気体として存在する実臭気を用いても、受容体の応答を検出できる下限の濃度に到達しないという課題がありました。
そこで本研究では、ニオイ分子に応答する受容体スクリーニングにおいて、異なる特徴を持つ2つの応答検出方法を組み合わせ、この課題を克服しました。
1stステップは、ニオイ分子を充満させた空気で受容体を数時間刺激することにより、応答を検出する方法です。この方法はニオイ分子の濃度が低い場合でも、短時間刺激する場合と比較して、ニオイ分子の蓄積により応答を増幅検出できる可能性が高まります。一方で、実際のヒトの鼻で瞬時に生じるニオイ知覚とは時間的な乖離が生じてしまうため、次に記載する2ステップ目の手法を段階的に組み合わせました。
2ndステップは、ニオイ分子を充満させた空気で受容体を数分間刺激することにより、応答を検出する方法です。刺激直後からリアルタイムに応答を検出できるという利点を持ちます。
1stステップで、約400種の受容体について喫煙室の空気に対する網羅的な応答確認を行い、応答が検出された受容体について、ヒトの知覚に近い即時的な受容体応答を評価できる2ndステップで応答の確認を行いました。2つの検出応答方法を段階的に組み合わせた結果、4種類の嗅覚受容体の応答を新規に検出することに成功しました。

当社は、今後さらなる研究を進めていき、家庭や様々な空間における空気の課題を解決する製品の開発を目指し、社会に貢献していきたいと考えています。
なお、本結果は大阪大学で開催された「日本味と匂学会 第59回大会(2025年9月8日~9月10日)で発表いたしました。