2021年09月27日

研究開発

揮発性の硫黄系悪臭物質に応答する ヒトのニオイ受容体を同定 ― 消臭作用のある香料も数種発見 ―

エステー株式会社は、国立大学法人東京農工大学との共同研究で、硫黄系悪臭物質に応答するヒトのニオイ受容体(※1)を同定し、実用的な消臭作用のある香料物質の探索を行いました。

従来の試験方法では、常温で気体の硫黄系悪臭物質であるメチルメルカプタンや硫化水素に応答するニオイ受容体の同定は困難でしたが、今回当社が開発した、気相(※2)中のニオイ分子をニオイ受容体に呈示する新たな試験方法にて、メチルメルカプタンと硫化水素に応答するヒトのニオイ受容体を2種、硫化水素のみに応答するヒトのニオイ受容体を1種同定しました。
また、100種以上の香料物質の中から、ニオイ受容体のメチルメルカプタンへの応答を抑制する作用がある香料物質を数種発見しました。
さらに、それらの香料物質を用いて、人体での官能評価試験を行ったところ、メチルメルカプタン臭の消臭効果が他の香料物質と比較して高いことが分かりました。

硫黄系悪臭物質は、世の中に存在する代表的な「悪臭」の一種で、家庭においてはトイレ空間や冷蔵庫内、生ゴミなどから発生します。特に“腐敗した玉ねぎのようなニオイ”と表現されるメチルメルカプタンや、“腐敗した卵のようなニオイ”と表現される硫化水素は嗅覚閾値(※3)も低く、悪臭防止法(法令番号:昭和46年法律第91号)においては特定悪臭物質に指定されています。そのため、これらの悪臭を感覚的に消臭する技術の開発が求められています。
そこで、本共同研究では、メチルメルカプタンと硫化水素に応答するヒトのニオイ受容体を見出し、同定したニオイ受容体の硫黄系悪臭物質への応答を抑制する香料物質の探索を行うことを目的としました。
今回、気相中のニオイ分子を検出する新たな試験方法を用いることで、常温で気体の分子に対するスクリーニングを可能とし、従来にない方法でニオイ受容体の同定に成功しました。さらにニオイ受容体の硫黄系悪臭物質への応答を抑制する香料物質も発見しました。

当社は、今後さらなる研究を進めていき、家庭や様々な空間における空気の課題を解決することで、社会に貢献していきたいと考えています。

なお、本結果は、「2021年度 日本味と匂学会 第55回大会(2021年9月22~24日、於:九州大学およびオンライン)」で発表しています。また「2021年度 第73回 日本生物工学会(於:オンライン)」でも発表予定です。
また、本研究の器具、手法、抑制剤などの成果物については特許出願済みです。

(※1)ニオイ受容体:鼻の奥の嗅上皮にあり、ニオイを検知するセンサーの役割を持つタンパク質のこと
(※2)気相:気体が占める部分のこと
(※3)嗅覚閾値(いきち):ニオイを感じる最低濃度のこと