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「介護空間のにおい問題」解決はタブー視せず口に出すことから

排泄用具の情報館「むつき庵」には、介護にまつわる相談が数多く寄せられます。中でも代表の浜田きよ子さんが、問題視しているのが「介護空間のにおい」。直接においについて相談されるケースは少ないものの、深く話を聞くとにおいのストレスを抱えている人は多いと言います。デリケートな問題の解決策を、浜田さんにお聞きしました。

口に出せないにおいの問題

お父さんを介護する女性(Aさん)から「おじいちゃんが大好きだった息子が、部屋に行かなくなった」という相談を受けたことがあります。息子さんに理由を聞いてもなかなか答えてくれなかったそうですが、やがて「おじいちゃんの部屋がくさい」とこぼしていることがわかりました。Aさんは毎日の介護で慣れてしまっていたものの、言われてみればかなりのにおい。息子さんの嫌がる気持ちを理解しました。
息子さんにしてみれば、口には出せなかったでしょう。口に出せば、おじいちゃん本人はもちろん、介護しているAさんを傷つけてしまうかもしれません。

においのストレスを解消すると介護と生活の質が上がる

改めて、介護空間のにおいは難しい問題だと感じます。同じ空間で過ごすことが長くなれば体臭や排泄臭が染み付きやすいのは確かです。一方で、生活していればにおいが付くのは当然ですし、嗅覚の敏感さにも個人差があります。介護している方は、不快でも自分が我慢すれば、誰も傷つけずに済むと思うでしょう。私たちにも、直接においの相談を受けることは稀です。

しかし、においの問題を解決せず放置すると、知らないうちに介護者のストレスが蓄積していきます。Aさんのケースのように、ストレスは周囲にも及び、家族の生活の質を下げていきます。被介護者は自分のにおいに気づかないかもしれませんが、お孫さんに来てもらえないのは悲しいはずです。

誰しも心地よいにおい空間で過ごしたいのは当たり前。においが気になるなら、前向きに問題として意識し、解決に動きましょう。何より、介護者のストレスを軽減すると、介護自体の質が上がっていきます。

介護現場のにおいが気になることがたびたびありますが、介護が十分に行き届いていないケースが多いです。おむつ交換やシーツの洗濯、入浴、口腔ケアなど介護に関わることの多くがにおいの問題に関係しており、対応しきれないとにおいの原因になります。
もし、介護しているご家庭のにおいに気付いたら、抱えきれなくなっている合図かもしれません。一人で抱えずに、周囲のサポートを活用しましょう。

介護空間のにおい問題を上手に相談する方法

悪臭の原因は本当にさまざまで、重なり合って複合的なにおいになっています。排泄物や使用済みのおむつが部屋に残っていたりするのはもちろん、なかなか洗えない頭のにおい、さらに口臭も原因になります。
(さまざまなにおいが混ざり合った複合臭の対策はこちら

まずは、気になっているにおいの原因を特定しましょう。枕がにおうのは頭髪が原因。シーツやパジャマなら、体臭や排泄物が残っているのかもしれません。

その上で、ケアマネージャーに相談することをおすすめします。その際に、漠然と「においが気になる」と訴えるよりも、「部屋がにおうのは口臭のせいだと思うが、どう対策すればよいか?」など、ポイントを明確にしたほうが相手も答えやすくなります。一緒に口腔ケアの工夫を考えてくれるかもしれませんし、訪問歯科という選択肢もあります。タブー視せず、口に出して向き合うことから、介護空間のにおい問題は大きく解決に向かうのです。

※本記事は、2019年1月に公開した内容の一部をリニューアルしています。

浜田きよ子さんプロフィール

排泄用具の情報館「むつき庵」代表。高齢生活研究所 所長
同志社大学文学部社会学科を卒業の後、親の介護をきっかけに高齢者の暮らしについて研究。介護に関するさまざまな相談を受けている。福祉住環境コーディネーター協会 理事。NPO快適な排泄をめざす全国ネットの会 理事。主な著書に「排泄ケアが暮らしを変える――百人百様の老いを支えて」・「おむつトラブル110番」「老いの技法」・「自立を促す排泄ケアー排泄用具活用術」ほか多数

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