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嗅覚が食の好き嫌いに深く関係!?食欲の秋に親子を見つめ直す「味覚教育」のすすめ


サンマやキノコ、芋、栗、果物…。食欲の秋、旬の味覚を満喫するために、香りとも関連が深い「味覚」に注目しました。毎日の食事を豊かにすることは、おいしく食べる以外にも、幅広いメリットがあります。淑徳大学の石井克枝先生に「味覚教育」について話を聞きました!

嗅覚がなければ味の違いは感じられない


味覚は、嗅覚と非常に強い関係を持っています。試しに、さまざまな味と香りがついた(お菓子の)グミを用意してください。目をつぶり鼻をつまんで口に入れると、何味を食べているのかまったくわからなくなります。それほど味の感じ方は、嗅覚に大きく影響されるのです。

私は、子どもの好き嫌いは、特に香りが大きく左右すると考えています。好き嫌いが多い子どもは、敏感な嗅覚を持つ傾向があるようです。

食べ物の香りは、鼻から直接受け取るだけではありません。口の中で噛んだ後に、鼻へ抜けて感じる香りがあります。口から感じる香りと、舌で感じる味があいまったのが「風味」です。

嗅覚は、経験に依拠しやすい感覚と言われています。育った気候風土や食文化など経験は人それぞれ。ですから、同じものを食べても風味の感じ方は、個人により大きく異なるのです。

毎日の食事から人生を豊かにする味覚教育

味覚教育は、正しい味覚を教えたり、敏感にするトレーニングではありません。「食べ物と向き合うこと」が目的です。

食べて感じたことを素直に表現することが基本となります。「おいしい」「まずい」だけではなく、なぜそう感じるのか? 同じものを食べても「甘さが好き」「酸っぱさが好き」「食感が好き」など、突き詰めれば食の好みは人により要因が異なります。

食べものに向き合って感じたことを表現しようとすると、食べものをじっくり味わおうとします。たとえば、レモンは酸っぱいだけではなく、甘みや苦みも感じられます。甘いと一口に言っても、花の香りを連想したり、ねっとりと濃厚だったりと、感じ方もさまざまです。

ふだん、日本人は味覚について細かく語ることは少ないでしょう。しかし、言葉で表現しようとすることで、食べ物からどういう情報を受け取っているか、考えるきっかけになります。

味覚教育は何に役立つのか?

味覚教育は、小学校中学年くらいの子どもにとても良い影響を与えます。味わって感じたことを言葉にしようとして語彙が増え、文章にする力もついてきます。

前述の通り風味の感じ方は人それぞれで、算数の計算式のような正解はありません。言い換えれば自分が感じたことは、絶対に正しいのです。他人の感覚に対して、「あなたの感じ方は間違っている」とは、親子でも言うことはできないでしょう。

味覚教育によって、子どもは自分が感じて表現することに自信を持つようになります。だんだんに感覚が研ぎ澄まされ、表現することが楽しくなっていきます。分析する力、表現する力は、他の教科の学習でも発揮されていくでしょう。

味の感じ方や好き嫌いが、友だちとまったく違うこともよくあります。日本人はとかく人と違うことを怖がりますが、味覚教育を通して、そもそも人はそれぞれ違って当たり前なんだとわかります。自己肯定感を持ち、他者との違いを理解し、尊重することにもつながります。

また、給食の時間に味覚教育を取り入れたある小学校のクラスでは、残菜がなくなったそうです。ある食べものが好きな子はその理由を、いろいろな言葉で表現します。嫌いな子はそれを聞いて、「食べてみようか」という気持ちになり、少しずつチャレンジしていきます。

親子で食について話し合おう!


給食は食べるけれど、お母さんの料理を食べない子がいます。相談を受けて話を聞いてみると、子どもに「食べたくない理由」を聞いていないことが、少なくありません。
子どもの好き嫌いや偏食には、必ず何か理由があります。まずは、ふだんの食事の中で、どう感じたかを表現しあい、親子で食べ物と向き合う時間をつくってみてください。そのとき、気をつけることは次の3つ。

1.余裕を持って食事の時間を確保する
2.味わいを素直に表現し、子どもに押し付けない
3.感じ方は人により違うことを親子で共有する

続けているうちに、子どもは自分が感じて表現することに、自信を持つようになります。子どもが発散できず抱えていた気持ちに、気づけるかもしれません。毎日の食事を、親子の関係を見直す機会にしてはいかがでしょうか?

編集部まとめ

食べ物と向き合い、自分の感覚を見つめ直すことが社会で生きる上で大きな糧になると、石井先生は教えてくれました。子どもはもちろん、大人にとっても味覚教育は良い機会になりそうです。
豊かな味覚は、豊かな嗅覚がつくります。一年の中でも特に魅力的な食がそろう秋に、食べ物の香りと風味に気を配ってみてはいかがでしょうか?

石井克枝先生プロフィール

千葉大学名誉教授・淑徳大学看護栄養学部教授・子どものための味覚教育研究会(IDGE)会長。フランス味覚研究所創設者・所長のジャック・ピュイゼ博士の理論を基礎とし、味覚教育を研究。『ピュイゼ 子どものための味覚教育 食育入門編 』(共著)、『子どもの味覚を育てる 親子で学ぶ「ピュイゼ理論」』(監修)などを手がける。