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嗅覚のナゾに迫る![脳科学]で広がる香りの活用法


不意に感じた香りをきっかけに、唐突に思い出が蘇るような不思議な感覚を、味わったことはないでしょうか? 嗅覚は五感の中でも、感情をゆさぶる特別な感覚と言われています。その不思議を科学で解き明かすのが杏林大学名誉教授の古賀良彦先生。脳科学の観点から、嗅覚と香りの秘密を教えていただきました。

―嗅覚は感情へダイレクトにはたらきかける感覚だと言われるのは、なぜでしょうか?


動物にとって、「におい=危険信号」です。何キロも離れた動物が敵か味方か、目の前の食べ物が本当に食べられるのか、など生死を分ける情報を嗅覚から得て、瞬時に判断しています。

もちろん、視覚や聴覚からの情報もありますが、進化の程度が低く脳の構造が単純な下等動物ほど、嗅覚が重要な役割を果たしています。たとえば、ミミズやもぐらは目や耳を使わず、鼻に頼って生きています。嗅覚は、動物のDNAに刻まれたより本能的な感覚なのです。

私たち人間の先祖も、自分にとって危険なもののにおいは「嫌い」、安全なものは「好き」、と感覚的に判断していました。ラベンダーの香りにリラックス効果があると言われていますが、それはかつて人にとって危険がなく心の安らぐ場所に、似た植物が多かったためかもしれません。

脳の中でも、嗅覚は「大脳辺縁系」という原始的な部位に結びついています。いっぽう、視覚や聴覚は「大脳新皮質」という進化の過程で発達した、比較的新しい部位との関わりが強いのです。

―現代の私たちが生きていく中では、どのように嗅覚が生かされているのでしょうか?

人は情報の70〜90%を視覚から得ていると言われます。視覚は嗅覚と比べて、理性的に物事を判断するのに役立ちます。
現代社会で危険を察知するには、理性を優先させたほうが都合がよいのでしょう。人にとって、「生きていくための手段としての嗅覚」は意味を失いつつあります。

ただ、本能に訴える感覚だけに、情緒的には大きな意味があります。つまりにおいではなく、香りを楽しむということです。たとえば、料理の味と香りは渾然一体です。食事をおいしく味わうには、嗅覚が大きな役割を果たしています。また、香水やアロマなども、香りを楽しんだり、生活を豊かにするという情緒的な意味を持っていると言えます。

―悪臭についてはいかがでしょうか?私たちは悪臭をただちに「危険」と判断することは少ないですが、それでも受けている影響はあるのでしょうか?

以前にリビング学習と家庭のにおいの関係を調べたことがあります。カビ臭や油臭など家庭にありがちな悪臭を再現した部屋と、無臭の部屋で、子どもの集中力や脳波をテストしたのです。結果、悪臭の影響で、やる気や集中力、脳の認知活動の下がることがわかりました。

被験者の子どもは、悪臭の部屋に入ってしばらくたつとにおいが気にならなくなったと言います。自分の部屋のにおいは気づかないものですが、それでも嗅覚が反応して、何らかの影響を受けている可能性があります。
つまり、嗅覚で感じる危険信号の記憶はDNAに刻まれていて、嫌なにおいの中にいると、脳がパフォーマンスを落とすのではないかと。

―今後、さまざまな分野で香りの活用が進みそうですね。

私自身は、香り付きの鼻腔拡張テープを監修しました(「セントテーピング エクストラフォーカス」「セントテーピング エクストラリラックス」)。着用時にやる気や身体の柔軟性を向上することが実証されています。つけた人の香りの好みに関係なく、パフォーマンスに影響するのがおもしろいところです。
いま、さまざまな分野で香りに対する注目度は確実に上がっています。

まとめ

「生きるための嗅覚」から「よりよく生きるための嗅覚」へ。古賀先生のお話から、香り×脳科学の研究・実用が広がっていることがわかりました。お困りごとがあるときは、どんなことでも、一度香りに目を向けてみてはいかがでしょうか? 身近な課題を解決する香りの力が、意外なところで見つかるかもしれません。

古賀良彦先生プロフィール

杏林大学名誉教授。昭和21年東京都世田谷区に生まれる。昭和46年慶応義塾大学医学部卒業後、昭和51年に杏林大学医学部精神神経科学教室に入室、平成2年に助教授、平成11年に主任教授となり現在に至る。日本催眠学会名誉理事長、日本ブレインヘルス協会理事長、日本薬物脳波学会副理事長、日本臨床生理学会名誉会員などを務め、香りと脳科学に関する企業との共同研究、商品開発など幅広く取り組む。